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- 第五回 想い出の旅エッセイコンテスト
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応募作品
2009 お土産自慢コンテスト
2008 第四回想い出の旅
2007 フォトコンテスト
2006 フォトコンテスト
2005 第三回想い出の旅
2004 第二回想い出の旅
2003 第一回想い出の旅
アルザスの青い空 山下 綾子(神奈川県)
父の転勤で海外に住んでいた小学生のころ、知人から借りた古いビデオに入っていたあるドラマを観た。それは、事業に失敗して全てを失った日本人男性が、フランスのアルザス地方でぶどう畑を営む夫婦に拾われ、人生を再生させてゆく物語だった。言葉も文化も違う場所で奮闘しながら成長してゆく主人公の姿に、私は激しく心を揺さぶられた。なぜなら当時、私も同様に、言葉の分からない国で苦労していたからだ。そのドラマを夢中で観終えたとき、私は決意していた。その主人公のように、異国の地でも精一杯生きてゆくことを。そして同時に、私には目標ができていた。それは、熱い感動を与えてくれたそのドラマの撮影地に、いつか自分の力だけで訪れるということ。
帰国後、高校生になると、私はアルバイトを始めた。旅費はもちろん、語学学校に通う費用を作るためだ。「自分の力だけで」と決めたからには、言葉も覚えたかった。そうした下準備を進めて迎えた、高校卒業後初めての夏休み。まだたどたどしいフランス語と、ようやく貯めた旅費を握りしめ、私は念願のアルザスへ向け、ひとり旅立ったのである。
「せっかくフランスまで行くのなら、メジャーなところは観光してきたら?」という母の提案に従い、最初の3日はパリに泊まり観光する予定を立てていた。しかし、ルーブル美術館に行っても、ヴェルサイユ宮殿に行っても、私の気はそぞろだった。どんなにすばらしい絵画や建造物よりも、私には見たいものがあったからだ。結局パリ観光を一日で切り上げ、翌朝アルザスに向かうことにした。
パリから列車に乗り、3時間かけてコルマールという街に到着。そこからタクシーでニーデルモルシュヴィルという村に向かう。初めて海外のタクシーにひとりで乗ることに多少緊張はしたものの、豪快に笑う明るいおじさんドライバーに、少しほっとした。
目的地の村は、現在ではジャムで有名な店があり日本人観光客も多く訪れるようになっているそうたが、当時はそれほど有名な村ではなかった。だからなのかもしれない。「どうしてニーデルモルシュヴィル村に行くのかい?」と、おじさんドライバーに尋ねられた。人口300名ほどの小さな村に、日本人の女の子が一人で向かうことが、不思議に思われたのだろう。私はたどたどしいフランス語でおじさんに話しはじめた。子どものころに観たドラマの話。その舞台となったアルザスの小さな村のこと。その村に、いつか自分の力だけで行こうと決意したときの気持ち。車窓から見えはじめた広大なぶどう畑に胸を躍らせながら夢中で話す私の言葉を、おじさんは相槌を打ちながら聞いてくれた。そして、私が話し終えたとき、おじさんは「ちょうど良かった」とばかりに、車を止めたのだ。
「ここが、君の来たかった場所だよ」
曇りの日も多いと聞いていたアルザスだが、その日は抜けるような青空が広がっていた。かわいらしいデザインの家が立ち並ぶ街。その周りに、どこまでも広がるぶどう畑。かつて観たテレビの中の世界が、確かにそこにあった。
「ここまで来るのに、10年もかかっちゃったな……」
あのドラマを観たときから、ちょうど十度目の夏。こうして、私はついに目的地にたどり着いたのだった。子どものころの私を支えてくれた、そして、それからの私の活力となってくれていた、私の原点とも言える場所に。
達成感なのか、感動なのか、よく分からない熱い想いでいっぱいになり、それが溢れそうになる。私は、慌てて空を見上げた。アルザスの青い空が、私の頭上いっぱいに広がっていた。
そのときに見た、涙で滲んだ果てしない「青」を……私は生涯、忘れることはないだろう。